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2011年7月20日 (水)

[読書メモ]養老孟司『バカの壁』

バカの壁(養老孟司)

本書は2003年に出版され、「バカの壁」という言葉が(本来の意味を離れて)流行語になったことを記憶されている人も多いかと思います。古本として数年前に購入していたものを、読まずにそのままにしていたので、かなり流行遅れになってしまいましたが、読んでみました。

本書全体を通す軸は、「常識を疑う」ことということになるでしょう。私たちが、たいした吟味もせずに正しいこと、よいこととしていることを、作者は痛烈に批判していきます。それは私たちが常識と呼んでいることそのものであったり、その社会の仕組みに沿った形で「個性を伸ばせ」という教育や社会の方針であったり、共同体自身を守るためにしか存在していない共同体であったりと、日本の悪癖と呼べるものが、ことごとく対象となっています。これらの観念を閉じ込めているものこそが、「バカの壁」として作者が意図したものではないでしょうか。

「情報」の取り扱い方が、8年前も斬新でしたでしょうし、今でも新しさを感じます。いわく、人にある情報xを入力として与えると、yという反応が現れたとき、脳内の係数aを用いてy=axという式で両者の関係を表すことができます。厳密に言えば一次関数ではなくもっと複雑なのかもしれませんが、ある情報に対しては全く反応を示さないa=0の場合や、逆に唯一絶対のものとして反応してしまうa=無限大の場合を考えることができます。
a=0であれば、無視、無関心、あるいは敵対のように、与えられた情報に対して何ら反応を変えません。上司や先輩の指摘に対しa=0の態度を取ってしまうような人は、会社ではやっていきづらいでしょう。また逆に、特定の情報に対してa=無限大、または非常に大きな値の場合は、原理主義的な考え方となり、特定の思想以外を受け付けないことになってしまいます。
様々な情報に対し、情報ごとに適切な係数aを取ることが望ましいわけですが、デジタル社会で生きているとaがいくつならば最適なのか、ということを考えてしまいます。おそらくそうではなく、極端に上にも下にも振れない、ある範囲内であればよいのだろうと思いますが。

もうひとつ、情報が不変で人間が変化する存在であるという、世間の常識とは逆の言説がおもしろく感じました。方丈記の「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず、世の中にある、人とすみかと、またかくのごとし」を、情報(=河)は不変と解釈されていたのには、なるほどそういう考え方もあるのかと思いました。方丈記や平家物語など、古典は人間のはかなさをうたうものが多いのですが、現代人は人間のはかなさを忘れてしまっている部分があるようです。
逆に、一度公開された情報は、いつまでもその形でとどまり続けます。たとえば本書が出版されてから8年になりますが、その間に内容が変わるということはないでしょう。時代とともに解釈が違ってくることはあるかもしれませんが、それは読み手(人間)が変化したのであって、本の内容(情報)が変化したわけではないということですね。

全体的には、作者が言いたいことがわかりづらい部分もありました。ですがそれは、養老氏が「自分の考えはこうだ」という押しつけをせずに、答えを私たちに考えさせる意図があったのかもしれません。
また最後に一元論の限界を取り上げ、二元論(「多元論」と呼ぶべきかもしれません)の可能性を示していましたので、世の中の問題に対する正解は1つではなく、いくつも答えがあるべきだし、作者自身がそのうちの1つを推すことはできないという立場ではなかったでしょうか。
読後感はすっきりせず、むしろもやもやしたものが残りましたが、そのもやもやしたものが何であるかを考えてみることこそが、「バカの壁」を超える方法のひとつである、といえるかと思いました。

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